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東京地方裁判所 昭和44年(行ク)55号 決定 1969年9月12日

申立人 谷翰一

<ほか一名>

右両名代理人弁護士 斎藤浩二

同 小泉征一郎

同 栂野泰二

同 角南俊輔

同 石川博光

同 大塚勝

同 葉山水樹

同 庄司宏

同 古瀬駿介

同 兼田俊男

被申立人 東京拘置所長 松野良典

右指定代理人 横山茂晴

<ほか五名>

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人らの負担とする。

理由

一、本件申立の趣旨及び理由は、別紙(一)乃至(三)のとおりであり、これに対する被申立人の意見は別紙(四)、(五)のとおりである。

二、疎明によれば、申立人らは騒擾指揮等の罪名で東京地方裁判所に起訴され、東京拘置所に勾留されているものであるが、昭和四四年九月四日東京拘置所長より、同拘置所管理部長古田稔を通じ、監獄法に基づく懲罰として、一五日間の軽屏禁及び一五日間の文書図画閲読禁止の処分を言渡されたことを認めることができる。

三、申立人らは、本件懲罰処分の違法事由として、被申立人の右懲罰は、裁判長のなすべき訴訟指揮権乃至法廷警察権の範囲を侵犯してなされた越権行為であると主張する。しかし、疎明によれば、右懲罰の対象とされた事実は、昭和四四年七月三〇日一六時四〇分頃、東京地方裁判所第七〇一号法廷において、裁判長が閉廷を宣した後、申立人らがなお退廷せず騒ぎたてたため、退廷命令が宣せられ、拘置所職員が退廷を促したにも拘らず、他の被告人らとスクラムを組み、怒号を発して退廷を拒否した事実及び拘置所職員が申立人らに対し実力をもって廊下に押し出した後も、申立人谷翰一は、廊下に座り込んで職員の指示に従わず、申立人山田純一は、拘置所職員花山光男の右手前膊部に爪を立てて擦過傷を加え、また、廊下の壁にへばりついて両足を広げるなどして抵抗し、さらに申立人谷翰一は、仮監独居房に転房させられた際、独居房の扉を三、四回続けて足蹴にしたという事実であって、すべて、裁判長が閉廷を宣した後の事実にかかるものである。ところで拘置所職員は閉廷と同時に、すみやかに勾留被告人を護送すべき責任を負担するものと解するのが相当であるから、閉廷後においてもなお退廷を拒む勾留被告人を、実力をもって護送することは、退廷命令の有無をとわず、拘置所職員の権限に属するものであり、かかる権限の行使に抵抗することは、とりもなおさず、「在監者護送の途中に於て紀律違反の行為ありたる」(監獄法施行規則第一六五条)ものとして、懲罰の対象とされるものであることは論をまたない。而して、右の懲罰は、前記裁判長の権限たる法廷警察権とは、別に監獄法が監獄の秩序を維持する必要上認めているものであって、その懲罰の対象とされた事実の一部について、たまたま法廷警察権が行使せられたからといって、監獄法にもとづく監獄権の行使が許されなくなると解することはできない(なお、最高裁判所昭四三(あ)五九三号、昭44・7・25三小法廷判決参照)。よって、この点に関する申立人らの主張は採用できない。

四、次に、申立人らは、本件懲罰の言渡しが、被申立人本人によってなされなかったことが、監獄法施行規則第一五九条に違反すると主張するが、同規定の趣旨は代理による告知を妨げないと解すべきであるから、管理部長古田稔によってなされた(この事実は、さきに認定したとおりである。)本件懲罰の言渡は適法である。

五、その他、疎明によれば、本件懲罰はすべて適法になされたことを窺うことができるので、申立人らの本件申立は、本案について理由がないとみえるときに該るというほかない。

六、よって、その余の判断をまつまでもなく、申立人らの本件申立は、失当であるから、これを却下することとし、申立費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用のうえ、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曽競 山下薫)

<以下省略>

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